コンクリート構造物の塩害調査・分析

塩害被害を受けたコンクリート構造物の耐久性評価と対策

コンクリート構造物の劣化メカニズム

土木・建築に限らず、コンクリート構造物は繰り返される荷重負荷による疲労、本来アルカリ性であるコンクリートが二酸化炭素の影響を受けて劣化する中性化、そのほか塩害、凍害、化学的侵食、アルカリシリカ反応などの劣化要因によって、ひび割れや変形、劣化が生じます。 

これらの劣化は、その構造物が建設されている環境によって左右されます。
例えば、海岸付近の構造物は塩害、寒冷地の構造物はコンクリート内部の凍結融解がもたらす凍害、酸性の温泉地の近くでは化学的侵食が起こりやすい傾向があります。

特に塩害は、複合的な劣化を招く要因となりやすく、鉄筋コンクリート構造物において「コンクリートの癌」と称されることが多い劣化です。 


塩害とは

塩害とは、コンクリート中の鋼材の腐食が内在する塩化物イオン(Cl-)の存在によって促進される現象です。 

塩化物イオン(Cl-)がコンクリート内部に存在する理由には、主に以下の2つがあります。

  1. 外的要因(飛来塩分)
    沿岸部では海水飛沫が風に乗ってコンクリート構造物に付着します。また、冬季には道路の凍結防止剤(塩化カルシウムや塩化ナトリウム)が散布され、塩分がコンクリートに取り込まれることがあります。
  2. 内的要因(内在塩分)
    海砂や塩化物を含む混和剤を使用した場合、コンクリート内部に塩化物イオンが含まれます。この内在塩分も腐食を引き起こす原因となります。

鋼材の腐食によって、腐食生成物の体積が膨張しコンクリートにひび割れや剥離を発生させることがあります。また、鋼材の断面減少などを伴うことで構造物の性能が低下する可能性があります。 


塩害を受けた構造物

塩害調査とは

塩害調査とは、コンクリート構造物に侵入した塩化物イオン量の分析や外観変状調査などを行うことで、塩害による影響を評価するための調査です。


塩害調査を行うメリット

  • コンクリート構造物における塩害の有無や進行具合を確認できます。これにより、塩分の浸透度やその影響を把握できます

  • 鉄筋の腐食による強度低下を評価し、構造物の耐久性への影響を見極めることで、今後の劣化などの将来的なリスクを予測できます

  • 必要な補修や補強工事の範囲と方法を決定し、適切な補修策を講じることで、構造物の長期的な耐久性や安全性を確保することができます


1.調査概要

調査概要

コンクリート構造物における塩害調査では、現地で外観や鉄筋の腐食状況を確認し、必要な試料を採取する現場調査から始まります。次に、試験室にて塩化物イオン量の分析を行います。
得られた結果をもとに評価・検討を行い、必要かつ適切な対策を導き出します。


構造物の外観変状調査(非破壊調査)

コンクリート専門技術者が、目視・打音(たたき)・非破壊試験を用いて浮きや剥離の範囲などを確認し、構造物の外観変状を調査します。


ドリル紛の採取

試料調整(局部破壊調査)

コンクリート構造物の代表的な箇所から、コンクリートコア、ドリル紛、はつり片などを採取し、試験・分析用の試料として使用します。


鋼材の腐食状況調査

自然電位測定による腐食可能性の評価

JSCE-E-601 コンクリート構造物における自然電位測定法に基づき、コンクリート構造物中の鋼材(鉄筋など)の調査時点での腐食の可能性を、鋼材表面の電位から測定する方法です。鉄筋を一部はつり出し、電気を流すことで、構造物を破壊せずに腐食箇所を調べることが可能です。

分極抵抗による腐食速度の推定

コンクリート構造物中の鋼材(鉄筋など)の、腐食速度(腐食電流密度)と反比例する分極抵抗を求めることで、腐食の速度が推定できる方法です。この方法は、腐食劣化の初期段階において有効だとされています。

自然電位法による調査


含有塩分量試験による塩化物イオン量分析

試験概要

JIS A 1154「硬化コンクリート中に含まれる 塩化物イオンの試験方法」に則りコンクリート中の塩化物イオン濃度を測定します。
測定結果から、採取した深度ごと(約20mmごと)の塩化物イオン量やその分布状況などが確認できます。さらに、この測定データを用いて、鋼材の腐食環境や塩化物イオンの拡散予測など劣化予測に活用することができます。

試験方法

試験方法として電位差滴定法、迅速法、蛍光X線分析、EPMAマッピングなどが挙げられます。

当社では、JIS A 1154「硬化コンクリート中に含まれる塩化物イオンの試験方法」に基づき、電位差滴定による硝酸銀滴定法で実施します。この方法は、塩化物イオン量の分析において広く用いられている試験方法です。
また、簡易的な測定方法として、既設構造物に与える影響が小さいポータブル蛍光X線分析装置を用いた測定にも対応可能です。

試験方法一覧
 名称  測定原理  分析の特徴
電位差滴定法         試料溶液の電気化学測定 コアやはつり片などの試料形態に依存せず、最も一般的で広く使われる試験方法
迅速法 試料溶液の電気化学測定           現場で迅速に分析可能
蛍光X線分析 X線による分光分析 薬品を使用せず、環境への負荷が少なく、比較的短時間で分析できる
 EPMAマッピング 電子線による元素分析

数μmオーダーでの測定が可能で、視覚的に分かりやすい面分析に加え、任意の深度方向における塩化物イオンの分布状況も把握できる


調査結果

コンクリート中に含有する塩化物イオン量が一定値を超える場合や、鋼材の腐食の状況などからコンクリート構造物の今後の劣化予測ができるため、コンクリート構造物の補修設計によく使用されています。
さらに、調査結果は塩害要因の抽出、または劣化の進行過程の評価などにも活用されます。

※ 出典により異なりますが、一般的には1.2 kg/m³とされています。


対策工法が必要な場合

対策工法は調査結果や劣化要因によって異なります。当社では、お客様のニーズと現状に合わせて、経験豊富な技術士、コンクリート診断士、コンクリート構造診断士、コンクリート主任技士などの専門技術者がチームを組み、外観上のグレーディング(コンクリート標準示方書 維持管理編)を基に最適な対策をご提案します。


2.当社が支援できること

高度経済成長期に集中的に整備されたコンクリート構造物は急速な劣化が進むと予測され、インフラメンテナンスが早急に求められています。

当社では、コンクリート構造物の塩害調査において、現場調査から必要な試験・分析までを実施し、その結果に基づいた適切な対策のご提案まで、一貫で対応可能です。

北海道から沖縄までの全国ネットワークで対応していますので、塩害調査・分析に関するお困りごとについて、お気軽にご相談ください。


3.関連試験

土木構造物劣化診断・老朽化調査において塩害調査・分析だけでなく当社ではアルカリシリカ反応(ASR)試験、凍害調査、中性化試験などの各種コンクリート試験や調査により、補修設計等で必要なデータを提供いたします。











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