マスコンクリートの温度応力解析

マスコンクリートで発生しやすい温度ひび割れを事前に予測し、対策を検討する

コンクリートはなぜひび割れをする?

コンクリートはセメントの水和反応により硬化します。この過程で水和熱が発生し、温度が上昇します。硬化が進むと水和反応が収束し、発熱が収まり、外気に冷やされて温度が下がります。この温度変化によりコンクリートは膨張と収縮を繰り返しますが、内的および外的要因により拘束されているため、自由に体積変化することができません。その結果、コンクリート内部に歪みが生じ、応力が発生します。これが温度応力です。温度応力がコンクリートの強度を上回ると、ひび割れが発生する可能性が高くなります。

温度応力解析とは

温度応力解析とは、マスコンクリート(部材厚や体積の大きいコンクリート)で発生しやすい温度ひび割れを事前に予測し、対策を検討するために行う解析です。マスコンクリートに分類される構造物全般で行います。

下部工、函渠(ハーフプレキャストボックス含む)、巻立て、重力式擁壁、護岸工、建築基礎、魚道など各種土木・建築構造物において、コンクリート施工前に温度応力によるひび割れ検討を行うことで、ひび割れの発生や最大幅を抑制に活用されます。また、水処理施設関連の構造物でも実施されます。最近では特記仕様書などで指定されている場合が多数ございます。

コンクリート標準示方書では初期ひび割れの照査を義務付けており、温度ひび割れの発生が懸念される場合(壁部材の場合厚さ 50cm 以上、スラブの場合厚さ 80cm 以上)にはほぼ確実に温度応力解析を行う必要があります。

コンクリート標準示方書では下記のように記載があります。

コンクリート標準示方書2022 12章 初期ひび割れに対する照査 12.1 一般

(1)コンクリートの収縮やセメントの水和熱に起因する初期ひび割れが、構造物の所要の性能に影響しないことを確認しなければならない

(2)沈みひび割れおよびプラスティック収縮ひび割れについては、一般にその照査を省略してもよい

(3)セメントの水和に起因するひび割れが問題となる場合には、実績による評価、または温度応力解析による評価のいずれかの方法により照査しなければならない

(4)ひび割れの制御を目的としてひび割れ誘発目地を設ける場合には、構造物の機能を損なわないように、その構造および位置を定めなければならない


マスコンクリートとは?

マスコンクリートとして扱うべき構造物の部材寸法は、構造形式、コンクリートの使用材料、配合および施工の諸条件によりそれぞれ異なるが、広がりのあるスラブについてはおおよそ厚さ80~100cm以上、下端が拘束された壁では厚さ50cm以上と考えてよい。 

出展:コンクリート標準示方書(2022年)


温度応力解析の目的

設計段階

設計に盛り込む温度ひび割れ対策として、過不足の検討を行うことができます。また、各種対策での効果や対策妥当性を比較することが出来ます。こうすることで、温度ひび割れ対策を設計に盛り込む際の根拠資料とすることが可能です。

施工段階

事前に温度ひび割れの照査および適切な対策を講じることで、ひび割れの発生を抑制または低減します。その結果、

  1. 構造物の長期耐久性を高めること
  2. 施工後のひび割れ補修などの手間を無くすこと
  3. 工事評点の低下を防ぐこと

などの利点があります。


 そこで当社では下記のようにご提案いたします。

設計段階

温度ひび割れ対策の効果や妥当性を確認し、有用なひび割れ対策をご提案します。

施工段階

計画や工程に沿った事前検討を行い、現況での温度ひび割れリスク評価や各種対策での対策過不足の評価を行います。


温度応力解析を行うメリット

  1. 打設前に温度応力解析を行うことでひび割れの発生確率を把握し、必要に応じた対策を検討することができる
  2. 解析結果(報告書)を数値やカラーバーで表現することで、発注者との意志疎通を図ることができる
  3. 事前に適切なひび割れ対策を講じることで、工期遅延や無駄なコストを抑えることができる

 


マスコンクリート三次元温度応力解析などのご依頼・ご不明点につきましては、こちらからお問い合せください。

費用は構造物の規模と検討内容によって変動いたします。発注期間やお客様の方針によって業務量・質が変わるため、お早めにご相談いただけますと幸いです。

1.解析概要

解析概要

コンクリート構造物の設計・施工段階にて、事前計画でのシミュレーションを行い、温度ひび割れのリスク照査を行う。また、得られた結果から対策検討などを行うことで、必要かつ妥当な対策を検討します。

必要資料

CAD図面、特記仕様書、施工計画(ヒアリングシート記入)、コンクリート配合、地盤情報、技術提案資料

フロー図

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解析方法

温度応力解析では、打設リフト、打設日、セメント種類など様々な情報をもとに温度・応力の計算をします。

また複雑な形状・性質をもつ構造物をメッシュ状に分解することで、小さな挙動を予測します。


解析結果

主な出力データは、「温度」「ひび割れ指数」です。

得られたデータから3次元解析図やグラフなどで視覚化されます。解析結果からひび割れ発生しやすい位置を事前予測し、対策検討の材料となります。


評価方法

評価方法はひび割れ指数により行い、ひび割れ指数が大きければ発生する温度応力よりも引張強度が大きく、ひび割れが発生しにくいということになります。

ひび割れの制御目標は、構造物の要求性能と右記のグラフ・下記の表を参考に設定します。

※ここでは安全係数≒ひび割れ指数

コンクリート標準示方書2022年

安全係数γcrとひび割れ発生確率

VR:構造物中のコンクリートの引張強度の変動係数

VS:構造物中のコンクリートの引張応力の変動係数

VR・VSともに基本は15%

 

 制御目標  ひび割れ発生確率  安全係数γcr

ひび割れを防止したい場合

5(%)

1.45以上

ひび割れの発生をできるだけ制限したい場合

15(%)

1.25以上

ひび割れの発生を許容するが、ひび割れ幅が過大とならないように制限したい場合

50(%)

1.0以上

 

判定

ひび割れ指数が目標値を満足しなかった場合、ひび割れ指数の改善または最大ひび割れ幅の照査を実施します。
多くの場合では目標値をひび割れ指数1.0以上か最大ひび割れ幅0.2mm以下として、対策を講じます。

 


解析結果一例

橋台

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竪壁に関しては、コンター図が赤く、数値も0.58と値が小さいことから幅の過大なひび割れが発生する可能性が高いです。

※吹き出し内の数値がひび割れ指数

ひび割れ指数が目標値を満足しなかった場合、ひび割れ指数の改善または最大ひび割れ幅の照査を実施します。
多くの場合では目標値をひび割れ指数1.0以上か最大ひび割れ幅0.2mm以下として、対策を講じます。

 

2.当社で支援できること

弊社では三次元温度応力解析により温度ひび割れに関する検討を行い、打込み区画の大きさ、高さ、継目の位置及び構造、打込み時間間隔などの設定にご協力いたします。

ひび割れ指数 1.0 以上か最大ひび割れ幅 0.2mm 以下を目安とした目標値を満足しなかった場合、ひび割れ対策の検討、対策方法のご提案をいたします。


 各種土木・建築構造物の解析

どのような形式のコンクリート構造物も解析を行うことができます。

解析例:橋台、函渠(ハーフプレキャストボックス含む)、巻立て、重力式擁壁、護岸工、建築基礎、魚道、etc

  1. 3連橋脚
  2. ボックスカルバート
  3. 砂防堰堤
  4. 建築基礎大梁
  5. 巻立て補強

二次元・三次元での対応

温度応力解析では、二次元(2D)での解析と三次元(3D)での解析が存在します。現在では一般的に三次元での解析が用いられています。

弊社では提出書類に合わせて、二次元または三次元での解析を行うことが可能です。

断面が変化している構造物は三次元で対応

橋脚(三次元)

擁壁(二次元)


幅広い対策工の検討

温度ひび割れを制御する方法としては、ひび割れ指数を制御する方法とひび割れ幅を制御する方法の2通りがございます。

< 一般的な対策工一覧 >

  工法  長所  短所
①ひび割れ誘発目地 計画位置にひび割れを誘発させ、耐久性と美観を確保 目地部にひび割れの発生を前提とする
②膨張材の添加 収縮応力を低減させる 費用がかかる
試験練りが必要
③養生方法の変更 費用・手間がかからない 効果は限定的
④打設高さの変更 打設量を減らすことで温度上昇量を抑える 計画の見直しが必要
大きな効果は見込めない
⑤打設間隔の変更 下部リフトの熱が残っている状態であれば拘束力が弱まり、温度応力が抑制される 計画の見直しが必要
条件次第では効果は見込めない
 ⑥配合の変更
 
 BB→N 線膨張係数の低下により歪み量が減少する 最高温度はBBより上昇
化学抵抗性は減少
 BB→M 発熱量の低減 コスト高
対応不能なプラントもある
⑦補強鉄筋 費用が比較的安い
有害なひび割れを抑制できる
ひび割れ指数自体は改善されない 
⑧ハイパーネット 有害なひび割れを抑制できる

設置の制限が少ない

ひび割れ指数自体は改善されない
⑨プレクーリング(打設温度の低減) 温度上昇量を抑える セメント工場の設備による
⑩パイプクーリング 温度上昇量を抑える
施工後の温度管理も可能
計画の見直しが必要
費用対効果は小さい

 

様々な対策工の検討が可能です。技術提案や養生材など、解析を基に定量的な評価を行うことが可能です。指数の改善のみでなく最大ひび割れ幅の抑制を目的とした対策も行えます。

温度ひび割れ対策としては、お客様とコミュニケーション取りつつ、現実的なものをご提案します。


〈対策工検討一例(指数改善)〉

※赤い程、ひび割れ指数が低いことを示す。


〈対策工検討一例(最大ひび割れ幅の抑制)〉

温度応力解析結果からひび割れ幅を予測し、基準値を超えるようなひび割れ幅とならないようにするために、補強鉄筋や補強ネットの検討も可能です。

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<橋台補強鉄筋案>

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<橋脚補強ネット案>

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3.実績(2018〜2023年抜粋)

主な発注者は各国交省・県、水処理事業団や民間で、年々ご依頼件数が増えており、年間350以上の構造物のご依頼をいただいております。

 実施年  2018 2019 2020 2021 2022 2023
 構造物  255  304  308  327  351  352

 


4.関連試験

温度応力解析後に、ボス・弾性波・かぶり・ひび割れ調査診断補修ができます。











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