【ブログ】熟練技術者に聞く!地中探査技術とは?その歴史とこれからについて
地中レーダ探査は地中埋設物の破損事故防止のための埋設管探査や、道路陥没事故防止のための空洞調査など、インフラ維持管理を行うなかで注目されている分野です。
当社では、お客様のご要望に応じてレーダ探査機を使った調査をご提案しています。また、従来のハード・ソフト面の課題解決の取組みとして、3次元レーダ搭載車両の運用やレーダデータの自動解析技術の開発に取り組んでいます。
今回は37年間、地中レーダ探査に携わり豊富な現場経験と知識を持ち、地中レーダ探査の第一人者である弊社SIP事業部門 DKCラボ所属 垂水さんにお話しを伺いました。
地中レーダ探査の基礎知識からSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の取組みについて、今後の展望、若手技術者への想いを語って頂きました。
地中探査について
―地中レーダ探査が行われるようになった契機、どのような社会背景があったのでしょうか?
垂水:1970年代頃にアメリカで使われていた地中レーダを日本でも活用できそうだということで、持ち込んだようです。日本の土壌はアメリカと違い複雑で入り組んでいたため、アメリカのように見えなかったみたいです。
また当時は、土木関係の掘削業務の際に地中に埋まっている、水道管、ガス管、光ファイバーケーブルの切断事故がないように、事前に手で掘って確認していました。時間も費用もかかる作業を地中探査で解決できないか?というニーズが国内で大きくなり、日本メーカーが日本に合った製品を作ろうとなったようです。
私は、国内で初めて製品化した4号機を購入しました(笑)
―地中探査はどのような原理で可能なのでしょうか?
垂水:地中レーダの探査原理は、航空機や船舶で使用するレーダと基本的に同じものです。
空港敷地内の一画でクルクル回転しているレーダアンテナをご覧になったことはないでしょうか。このアンテナからは電波を空中に向けて投射しています。投射した電波は空中を伝搬し、遠方を飛行している航空機に当たると反射してアンテナに戻ってきます。
空中での電波の伝搬速度は決まっているため、投射から飛行中の航空機に反射した電波を受信するまでの往復時間を計測すれば航空機までの距離を知ることができます。
また、アンテナが1回転するごとに航空機の位置が変化してることでアンテナの受信角度の変化で移動方向や移動速度が求めることができます。
地中レーダは、対象となる地中の物標は移動しないため、空中のレーダとは違い地中に向けたアンテナを前後に移動(走査)することにより、物標までの深度や水平位置を知ることができます。
地中レーダ探査との出会い
―もともと地中探査を学ばれていたのですか?
垂水:私はエアコン等の空調設備、衛生設備関係の工業高校を卒業後、空調関連会社に入社しました。その会社で新規事業を始めることになり、当時、最先端であったドイツ製の探査機器を導入して埋設されているガス導管のガス漏れ箇所を地上から調査しました。これが地中探査との出会いです。
<ガス漏れ箇所 地中探査の調査手順>
① ガス導管の埋設位置をパイプロケーター(電磁誘導方式の探査機)で位置と深度の測定 (約5~10mピッチで路面にマーキング)を行う ② 埋設位置と深度が分かったところで、自走式のボーリングマシンを使用し、 約10mピッチでガス導管のすぐ上の路面を直径10㎜程度のボーリングバーで削孔を行う この時のボーリング深度はアスファルトを貫通させる10~20cm程度とする ③ FID(ガス探知機)を使用してボーリング孔から地中の気体成分を吸い上げる ガス探知機のセンサー部通過させることにより、気体にガス成分が含まれているか どうか、またはガス成分の濃度なども同時に測定する ④ ある濃度以上のガスが検知されると、地中でガスが漏洩していると判断する |
―新規事業がきっかけで地中探査に出会ったのですね!では地中レーダ探査との出会いは、いつ頃ですか?
垂水:それから数年後、九州の港町の調査で客先と打合せをする中で、海岸部のガス導管は土壌の塩分濃度が高く、腐食防止のために鋼管ではなくポリエチレン管を使用している現場がありました。調査はガス導管の位置探査から始めます。
<電磁誘導方式の探査原理>
① 宅地内にあるガスメータやバルブボックスなどの露出部から電流を流す ② ガス導管の周りに磁界を発生させる ③ 発生させた磁界のピーク(波形の頂点)を路上の受信機で追いかる |
インタビューをもとにイメージ図を作成
垂水:ところが、ポリエチレン管では電流が流れず磁界が発生しません。
どうしたものかと宿で悶々としていた時に、テレビで地中レーダ探査機が日本で初めて商品化されたというニュースが流れました。
「これならポリエチレン管も探査できるかもしれない!」と思い、翌日早々に東京のメーカーに電話を入れました。メーカーから「見られる可能性がある」との回答を得て飛びついたのが地中レーダ探査機との出会いです。
インタビューをもとにイメージ図を作成(※反射強度は物質により違いがあります )
―たまたま点けていたテレビのニュースがきっかけだったのはすごいですね!
垂水:ニュースを見たときは運命的でした。
しかし、結果的に反射強度の弱いポリエチレン管を見つけることはできませんでした。当時の私は、地中レーダ探査機はポリエチレン管でもなんでも明瞭に見られるものだと思っていました。最後はポリエチレン管の位置を探査することはできず、お客様に説明を行い、了解をいただきその現場は終了となりました。
地中探査の魅力とは
―地中探査をするうえで難しいところ、あるいは面白いところはどこですか?
垂水:地中探査の難しいところは、地中の反射画像は一つとして同じ反射パターンは見られないことです。常に未知の世界を、経験則と独自の理論によって解析することが求められていることです。
私は37年にわたってレーダデータ解析に携わってきました。それでも表示される1画面の地中情報のうち、理解できる反射パターンはおそらく全体の数パーセント程度でしかないのではないかと考えます。
例えば、鉄筋や埋設管の反射パターン、地中空洞の特徴的な反射パターンなど、限られた反射パターンの判定は可能ですがその他、多くの地中状況を示す複雑な反射パターンは理解不能と言ってよいかと思います。
しかし、解析経験を重ねることにより、過去の検証結果ではこのパターンの場合は、こんな対象物であったなどという経験則が積み重ねられて解析精度が向上するものだと考えます。
したがって、これらは地中探査の難しいところでありますが、未経験の反射パターンに遭遇できることは私にとって、非常に楽しいところでもあります。
現在は徐々にAIパターンマッチング技術などが発達し、必ずしも経験則を持たない人たちでも結果を出せるようになりつつある状況です。
しかし、現状ではレーダ解析において経験則の占める割合はいまだ60%以上を占めるのではないかと考えています。
―印象に残っている現場はございますか?
垂水:太平洋戦争の激戦地であった島の地下壕探査や、カンボジアでの地雷探査が印象に残っています。
地下壕探査は自衛隊が使用する滑走路の整備に伴い、コンサルタント会社から依頼がありました。島は海上自衛隊が管理をしています。民間人は島に入れないため特別な許可が必要でした。そのため調査の人員やレーダ探査装置は、国内の自衛隊基地から輸送機に乗せて島内に入りました。
火山島のため地熱が50~60度と高く大きなムカデやサソリに注意が必要でした。
また、山の形が変わるほどの艦砲射撃を受けた島内唯一の山や、当時のトーチカに据えられ、朽ちた大砲などが印象に残っています。
―普段、立ち入ることができない場所へ行き、探査をするのは大変ですね。地雷探査はいかがでしたか?
垂水:地雷探査は、当時、アフガニスタンやカンボジアで過去の紛争によって大量に地雷が埋まっており、毎日のように民間人が地雷の被害にあっている状況でした。
そこで、我々が使ってきた地中レーダ装置を軽量化して非接触で使える地雷探査機を開発してはどうかということになり、補助金をいただいて開発をすることになりました。パートナー企業の技術協力をいただき1年ほどで開発が完了しました。
そこから実際の探査性能を確認する必要があることから、当時付き合いのあったNGO法人がカンボジアで地雷除去の活動をしていることもあり、協力を得て現地の土壌で実際の地雷を使った試験を実施することができました。
試験地では2点の課題がありました。1つ目は、使用する地雷がプラスチック製でほとんど金属が含まれていない点です。地中レーダは金属には強い反射を示すのですが、プラスチックは小さな反射しか起こらないため本当に探査が可能なのか不安でした。
2つ目は、現地の土壌は「ラテライト」という特殊なもので金属成分を含むため、レーダから投射する電波の減衰が多いと言われている点です。
現地では2,000m2ほどの空き地を拝借して、火薬を抜いた本物の地雷を深度別に埋めて探査試験を4日間にわたり実施しました。結果はプラスチック製地雷でも問題なく探査が可能である確認ができました。
―火薬を抜いた地雷ですが、紛争があった地での試験は不安ではなかったですか?
垂水:当時のカンボジアは、ポルポト派の残党がまだ活動していたため、空港から試験地までの運搬にあたり金目のものがあると襲撃を受ける可能性があると現地スタッフの忠告を受けました。そのため、カンボジア正規軍の小銃を持った兵士が8名ほど乗った警戒車両2台が、我々の車を護衛しながら移動するという緊迫した状況でした。
無事に試験地に着くことができたのですが…
試験地は3年前にカンボジア軍が地雷を除去しているから、本物の地雷が埋まっている心配はないと聞いていました。しかし、カンボジアは雨期になると集中的な降雨が頻繁に起こり、プラスチック製で軽い本物の地雷が他所から流されている可能性がある話を聞いた途端、地雷探査機をもっていたメンバーは前に進むことができなくなりました。
これは強烈な思い出となって、今でも明瞭に情景が浮かんできます。
―地中レーダ探査で、よくいただくご相談はありますか?
垂水:地中に埋まっている矢板や鋼管杭、PC杭を地中レーダ探査で見つけてほしいというご相談はよくいただきます。しかしながら、ご希望に添う探査ができないのが現状です。
面的に広がりのあるものは地中レーダ探査をすることはできますが、矢板等は上から見ると細いですよね。そうすると地中レーダで反射を取ろうとしても反社面が小さいため探査が難しいです。
また、5m以深の空洞を見つけてほしいというご相談もいただきます。
低い周波数で深い深度まで探査を実施することはできますが、波形から小さな空洞を区別することはできません。部屋一室ほどの大きさの空洞であれば区別はできます。そのため、路面化の空洞探査では周波数を上げて探査をしています。その限界が1.5m程度になります。
SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の取組みについて
―DK入社後はSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)という国のプロジェクトにも参加されていますよね? どんなプロジェクトだったのでしょうか?
垂水:SIPは、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野を越えたマネジメントにより、科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクトです。
国民にとって重要な社会的課題や、日本経済再生に寄与できるような世界を先導する10の課題に取り組み、各課題を強力にリードする10名のプログラムディレクター(PD)を中心に産学官連携を図ります。基礎研究から実用化・事業化、すなわち出口まで見据えて一気通貫で研究開発を推進し経済成長の原動力であり、社会を飛躍的に変える科学技術イノベーションを強力に推し進めていくプログラムです。
―当社はどんなプログラムに参加したのでしょうか?
垂水:当社が参加したグループの開発テーマは、
「道路インフラマネジメントサイクルの展開と国内外への実装を目指した統括的研究」というもので、下記の16機関が得意分野を担当し進めました。
研究責任者 2013年11月 - 2018年3月 前川宏一 東京大学大学院工学系研究科教授
2018年4月 - 2019年3月 石田哲也 東京大学大学院工学系研究科教授
研究開発実施機関(計16機関)
東京大学、日本大学、株式会社土木管理総合試験所、株式会社NIPPO、東日本高速道路株式会社、首都高速道路株式会社、横浜国立大学、京都大学、大阪大学、高知工科大学、情報通信研究機構、東京工業大学、筑波大学、公益社団法人土木学会、北海道大学、九州大学
―当社はどのようなテーマを担当したのでしょうか?
垂水:当社が担当したテーマは、車載型高速移動レーダ探査車(RSV:ロードスキャンビークル)によるデータ取得と東京大学 水谷准教授の開発したアルゴリズムをベースにした床版劣化解析技術の開発です。
今後の展開について
―地中探査は今後どのようになっていくと思いますか?
垂水:地中探査技術の今後という意味では、どんな波を使って探査するのか、あるいはどんな波が適しているのかという話になるのかと思います。
電波も波ですが、地中を相手にする場合X線などの透過法ではデータを取得することができません。そうなると反射法で最適な手法はと言うと、現状ではレーダ探査手法が最適であると考えられます。
空洞をターゲットにした場合、重力探査法なども考えられますが、規模の大きな空洞などには有効かもしれませんが、小さなものは難しそうです。また、比抵抗分布などを測定する手法などもありますがおおまかな探査となってしまいます。この先新しい探査機の出現が期待されますが、当面は出てこないと考えています。
ハード面で新しい探査手法が望めないのであれば、レーダデータのソフト面がいかに適切に処理・加工して今以上の解析精度や信頼性を向上させるかという方向になっていくと考えられます。
そこで考えられるのが、AI技術や自動解析技術です。
先に述べましたSIPの中で、東京大学の水谷准教授が構築されたアルゴリズムに基づいた信号処理による自動解析手法です。
現状でも橋梁床版コンクリートの劣化診断技術としてはほぼ確立されており、今後の継続した研究開発により、精度向上と解析時間短縮を望め、解析技術の主流となっていくのではないかと考えております。
―最後に若手技術者に一言お願いします
垂水:地中レーダ探査に限らず、ハード・ソフトともに進化している現在は、土木分野の技術者の皆さんには、やはり数多く現場をこなし、いかに多くの経験則を身に付けるかが重要だと考えています。
とくにレーダデータ解析技術者の場合、データを読取る技術とともに、探査対象である土木構造物の構造・構築手順、骨材やセメントの物性・気温による電波特性の変化などなど…基礎知識と相まって成長するものであると思っています。
例えば、トンネルのコンクリート壁の裏側の空洞を探査するとします。この時、空洞パターンだけを頭に入れていても意味がありません。トンネル構造や、トンネルがある地形的な判断もできることで解析の精度も上がっていきます。
さらに、我々の土木分野の多くの技術者は、現在でもどれだけの経験を積んできたかが信頼の基本となっています。
若手技術者の皆さんにも、このような取り組み姿勢を忘れずに精進していただきたいと思います。
右からDK マーケティング部 遠藤、DKCラボ垂水、マーケティング部 光本
改めて、今回インタビューにご協力してくださったのは、DKCラボの垂水顧問でした。
お忙しい中、ありがとうございました!
▼ プロフィール
垂水 稔( SIP事業部門 DKCラボ )
空調設備会社に入社後、新規事業で地中レーダ探査機に出会う。地中レーダ探査の第一人者として国内外問わず多くの現場業務、解析業務の実績を積む。その後、2012年3月に土木管理総合試験所に入社。地中レーダ探査の豊富な知識と経験を活かし解析業務を行う。また、次世代の若手技術者の育成にも力を注ぐ熟練技術者。
当社では、路面化・軌道化空洞探査や埋設物管探査、トンネル覆工探査をはじめ、橋梁コンクリート床版劣化の新規構造物の従来の調査方法の課題解決を行っております。
また、3次元レーダ搭載車両を使った路面性状調査なども行っておりますので、詳しくは下記リンクからご覧ください。